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タイミングは全てなのか?

池上通信機 事業プロモーション室 (放送担当) 今成 歩

「アメリカの大統領にとって最も重要な事は『アジェンダ・セッティング(課題の設定)』だ」と、とある有識者が先だってのアメリカ大統領候補TV討論会に際してコメントしたのだが「確かにね~…」と思ってしまった。

11月3日は4年に一度のアメリカ大統領選挙の日だが、12年前の大統領選挙の当日、私はシカゴのオバマ大統領勝利宣言の会場で、衛星生中継の技術班で仕事をしていた。その時のアジェンダはかの有名な「CHANGE」であり、「YES WE CAN」は日本でも大流行したと聞いた。

それから遡ること更に8年程、21世紀を向かえようとする頃、「ドットコム・バブル」と空前の好景気に沸くニューヨークに出たばかりの私は、「Timing is everything (タイミングが全て)」という言葉に何度も出くわす事になった。就職活動、企画のコンペ、果ては企業の経営判断まで、猛烈な勢いで「イケイケ状態」が続いていたニューヨークでは、「とにかく波に乗り遅れないように」と深い考察や冷静な評価無しに世の中がどんどん動いていった気がする。それから2年も立たない2001年9月11日に、そのニューヨークは同時多発テロという未曽有の危機を経験し、2008年9月にはリーマンショックの震源地となり、世界金融危機の元凶となった。

余談だが、リーマンブラザーズ本社前のスタバでよく内職していた私としては、1987年10月のブラックマンデーとか、アメリカの金融経済界は今までも結構「ヤラカシテいる」と声を大にして言いたい。

さて、前置きばかりが長くなってしまったが、今日、話題にしたいのはPTP、Precision Time Protocol への導入で、何故ならそれは、長くIP/IT化が進まなかった放送業界で核となる要素技術が「同期結合」、それを可能にする「タイミング管理」だからだ。

放送業界、分けても日本における「タイミング管理」の厳格さは、あの伝説の生放送番組、「8時だョ!全員集合」の頃から本質的に変わっていないのだが、インターネットが発達し、世の中でIT化、デジタル化、などと喧伝されて久しい2020年現在も、B.B.に代表される連続的なアナログ同期信号は放送設備の心臓部だ。

皮肉にも、アナログビデオ信号がデジタル信号になり、更にHD (ハイビジョン)になり、更に4K、8Kと超高解像度、超高精細を訴求していくなかで、超高周波における厳格なタイミング管理の技術は、安定したテレビ放送の実現のみならず、日本の放送技術が「世界品質」と呼ばれてきたコア技術であると私は信じている。

PTPは、世界的にも類を見ない厳格なタイミング管理を「文化」としてきた日本の放送業界が、ついにIP/ITの世界へと扉を開く、そんな大きな可能性を秘めた技術である。そう敢えて書いたのは、PTPについて我々の知見はまだまだ充分とは言えないからだ。

VidMeet Onlineでは、「日本のグランドマスター」の異名を取るテレストリーム(旧テクトロニクス)社の加藤 芳明さんによる魅惑のウェビナーを企画し、11月からいよいよ本格化するデータセンターとVPNを駆使した20社合同(10/24現在)の大規模デモでも最大のテーマのひとつとしている。是非、奮ってご参加頂き、共に放送業界の未来を考える事が出来れば、これに優る喜びは無い。

最後に、誤解無きように、私は今でもニューヨークが大好きだ。実はコロナが大流行する直前の2月に、7年ぶりに当地に出張したのだが、ニューヨークは変わらずチャーミングな街だった。願わくば次にニューヨークで仕事出来る時には、「これこそ日本のオリジナリティ」と胸を張って、手強いアメリカ人達と渡り合いたいと思っている。

勿論、新たな一歩には希望と共にリスクが立ちはだかる。コロナ禍で足元の経営戦略にもリスク回避が顕著なのは我々だけではない訳だが、「Timing is everything」とか「YES WE CAN」とか、日本語でも新たな一歩を後押ししてくれる、そんなスローガンは無いものか?色々探してみたけれど、やっぱりあれか?それこそ「タイミングを逸している」との誹りを免れないかも知れないが、発言主にも大いなる敬意を持って、敢えて言おう。

「いつやるか?今でしょ?」(了)

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スティーブ・マックイーンとデータセンター

池上通信機 事業プロモーション室 (放送担当) 今成 歩

私は自他共に認める平和主義者なのだが、「カーキ色」が大好きだ。「カーキ色」は定義の微妙な色で、「アーミーグリーン」「セージグリーン」「オリーブドラブ」など、実は多種多様な色目であるものの、総じて「漢気(おとこぎ)の緑色」を想像して頂きたい。

そう、ベストヒットUSAで育ち、バブルの時代に「アメカジ」の洗礼を浴びた我々の世代は、MA-1と呼ばれる米軍のフライトジャケットにきっと一度は袖を通したであろうし、長じて往年の名画「大脱走」のスティーブ・マックイーンに「なりたい」と一度は夢見た「男のロマン」世代なのだ。(余談だが、「半沢直樹」の世代は少し上になる)

そんなカーキ色大好きの私も、4月からのテレワークで自慢のカーキグッズで現場を颯爽と歩く機会も無く、悶々としていたところに、ついに来た千載一遇のチャンス、それが昨日の「データセンター機器実装」だったのだ。

止せばいいのについつい買ってしまった新調の「HBT (ヘリンボーン・ツイル)」カーキ色、ミリタリー風パンツを身に付け、久しぶりに電車に乗って件のデータセンターに向かう途中、車窓に映った自分の姿を見て「流石にちょっとコスプレ入ってないか…?」と少し不安になって、iPadで一生懸命勉強している風だった女子高生の視線を意識したりしながら「現場」に向かったのである。

生まれて初めて足を踏み入れたデータセンターは、「現場」と言えば、ケーブル作製時の被覆の山にまみれる工場や、焼きそばパンをかじりながら一心不乱に電子台本の追い込みをする報道フロアとは全く別次元の、正に「機能そのもの」という風情で「無機質」とすら感じさせる、ある種の威圧感を持って私を迎え入れたものだ。

しかしながら、実際の作業は、4人の男達で寄ってたかって「棚板」をラックにネジ止めしたり、空調の爆音の中、ケーブルを通線穴から二人で手繰り寄せたり、あの「漢気(おとこぎ)の空気感」にあふれ、帰宅して眠る頃には筋肉痛になっていた。

「放送IP化はクラウドを目指す」この分野に携わっていれば誰もが感じる命題だが、実際のデータセンターでも、クラウドの機能を提供する為に「オンプレミスのベタな作業」は不可欠な訳で、その「オンプレミスのベタな作業」は、私自身にとても親近感のある「怒涛の漢気(おとこぎ)作業」でもあったのだ。

これまでなかなかIP化の進まなかった放送業界も、いよいよその荒波を真正面から受ける、そんな時代に私達は立ち会っているのかも知れないと思う。そんな時代に、「データセンターに居たよ、スティーブ・マックイーン」と、スマート世代の語り草になる、そんなオヤジに私はなりたい。(了)