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終わりに変えて

株式会社インターネットイニシアティブ 山本 文治

さて、VidMeet Onlineは明日12月11日で会期を閉じることになります。

思えば2020年の7月頃、どうやら今年のリアルイベントはかなり開催が厳しそうだという見通しが経ってきた頃でした。「元々オンラインなら自分たちの領域。人に踊らされるくらいなら自分で踊れば?」と思い、コミュニティに呼びかけて始めたイベントでした。それ以来かなり時間を使って続けてきましたので、大禍なくこの日を迎えられることに安堵しています。

ネットワークを母体としたコミュニティベースのプロジェクトをかつて経験してきたことがありましたので(日食中継といえば一時期ネット界隈の皆さんにはよく知られていたかと思いますが、何年もの間どっぷりコミットしておりました)、おおよそどのようなことができそうか想像は付いたのですが、自分で撒いた種がなかなか刈り取れなくて大変なのは当時も今もあまり変わってませんでした。ご迷惑をおかけした皆様にはこの場を借りてお詫びとお礼を申し上げたいと思います。

オフラインイベントとしてのVidMeetはIIJが主体となって進めるイベントでしたが、VidMeet Onlineはベンダー各社が共同主催者となって進めるスタイルに変わりました。ただその変化の上でも留意したのは「各社がやりたいことを最大限に支える」スタイルでした。コミュニティ運営には色々なスタイルがあって然るべきですが、ことVideo over IP領域に関してはちょっとビジネス色が見えるくらいの方がいいのかなと思っていて、相互接続性とかベンダー非依存とかは求めませんでした。むしろガチガチのベンダーロックインスタイルを出してほしいと思っていたくらいです。どうもこの領域はエンドユーザとベンダーの持ちつ持たれつという構造があって、そこをあまりに無視してもリアリティがないなと感じているからです。

ぶっちゃけ、VidMeetも9回開催してきて、まあだいたいやりたいことはできたんですよね。もちろんネタは多数あるのですが、マンネリになるくらいならスパっと…と思っていた矢先のコロナ禍。そんな折り、昨年のInter BEE Video over IPチームを交えたZoomミーティングで「VidMeet Onlineという名前でやるといいんじゃない?」と言ってくださったのはMellanox/NVIDIAの田口さんでした。それまで全く自分では考えていなかった展開でしたが、一気に光明が差す思いでした。このコメントがなかったら、VidMeet Onlineは存在していなかったと思います。田口さん、ありがとうございました。

VidMeet Onlineやってみて良かったと思っています。この成果を各社さんやエンドユーザさんが感じてくれればもちろんそれは喜びですし、もうちょっと何かできそうだとも思っています。実際いくつかの会社やチームがネットワークやデータセンターを舞台とした実験を継続する予定になっています。今後の活動については、また何らかの形でお知らせしていきたいと思います。

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SMPTE ST 2110 Virtual Courseと私

株式会社インターネットイニシアティブ 山本 文治

そうそう、SMPTEがロゴを変更しましたよね。自分は1980年代チックでナウでヤングな印象を受けました。

歴史のある学会だけにロゴの変更には内部で議論もあったでしょう。私がすぐ思い出したのがNASAのロゴの変更でした。

NASA insignia, 1975–1992
NASA insignia, 1959–1975, 1992–present

1975年に登場したこのロゴはデザイン的には高い評価を受けつつも職員の間では色々な議論があり、1992年には以前のロゴ−実に1959年に制定されたもの−へ戻されるに至ります。大組織でいかに個々人の意識改革が難しいのかを物語っている…のでしょうか。

1996年に初めて渡米したとき「自分はいまアメリカ合衆国に来たのだ!」と感じた瞬間をはっきり覚えています。それはSFOからSan Joseに向かう101の途上で見えてきたこのNASAのロゴそして「NASA Ames Research Center」の看板を見たときでした。映画”The Right Stuff”の世界を想起させ、かつまたその頃主要な位置を占めていたIXがNASA Amesにあったこともあり、科学技術の大国に来たのだと肌で感じた一瞬でした。(今も看板あるのかなあと思ってGoogle Streetviewで探してみたら見つけられませんでした。もしかして擬似記憶?)

さて今回はそのSMPTEの2110 Virtual Courseについて紹介させてください。SMPTEの今の推し技術のひとつがST 2110であることはWebサイトをちょっと見ただけでもわかりますが、その中でご紹介したいのが”Understanding SMPTE ST 2110″というVirtual Courseです。これはいわゆるオンライン学習コースで、2017年に開講されて以来繰り返し開催されています。

コロナ禍の際に半額キャンペーンをやっていたので受講しましたが、これがなかなか勉強になる内容でした。コースは全部で6コマあり、受講時間以外に4-6時間/週程度の自習時間を想定。卒業試験込みで8週間の期間を想定。授業はオンデマンドムービーと資料でいつでも受けられて、週一のライブレクチャーセッションあり(日本からだとあまりにも深夜なので、私は参加しませんでした。質問はBBSでもできます)。講師はLearnIPVideo.com主宰者のWes Simpsonと、なかなか骨太な概要です。

  • Module 1 – Background and System Overview
  • Module 2 – Video Encapsulation
  • Module 3 – Audio Encapsulation
  • Module 4 – Data Encapsulation
  • Module 5 – Synchronization and Identification
  • Module 6 – Traffic Shaping and Delivery Timing

各コマの内容は以上のようになっており、ST 2110技術の俯瞰ができるようになっています。今だとNMOSの話がないと満足できないかもしれませんが、そこは仕方がないところでしょうか。

毎コマ毎に時間制限付きの選択式小テストがあり、きちんと回答するには予め規格書を読んでおくことが好ましいと思われます。ST 2110の各ドキュメントは受講者に無料で配布されますが、しっかり理解しようとすると関連RFCやAES67, ST 2059も押さえておく必要があり、ここが非常に勉強になると感じたところです。

脱線するとST 2110-30やAES67からreferされているRFC 3190 “RTP Payload Format for 12-bit DAT Audio and 20- and 24-bit Linear Sampled Audio”は当時CRLの小林克志氏(現・東京大学)と慶應SFCの小川晃通氏(現・「Geekなページ」ブロガー)他2名に依るものです。当時WIDE Projectが推進していたDVTS (Digital Video over IP)を標準化するためRFC3189 “RTP Payload Format for DV (IEC 61834) Video”とセットで発刊されたもので、これは実に2002年のことです。

このRFCがAudio over IPの時代になって再び注目されreferされているのを見て、標準化作業の重要性を感じたものです。そういえば発刊されたとき勉強会をしてたよな…と思い出しまして、その時のログをarchive.orgからご案内しておきます。https://web.archive.org/web/20080214164254/http://streams.jp/BOF/DV/log.txt

閑話休題。このVirtual Courseで学ぶことができる内容は、ベンダーの開発者やエンジニアならもはや頭のなかに入っていることばかりでしょうが、特に私のような放送技術の門外漢にとっては効果が最大化できるように思います。同時に受講した同僚も勉強になったと言っておりましたので、きっとそうなんだろうと思います。

春先の段階ではSMPTE会員のみが登録可能となっており、そこはもったいないところでしたが、今は非会員でも受講できるようです。また半額キャンペーンも続いています。特にSMPTE会員企業ならば非常にお得なコースではないでしょうか。あるいはこれを機会にSMPTEへの入会を考えても良いでしょう。

小テストと卒業試験をクリアすると次のようなcertificationがもらえます。自己満足、もとい自己研鑽のためにいかがでしょうか。

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VidMeet Onlineを支えるツールたち

株式会社インターネットイニシアティブ 山本 文治

VidMeet Onlineは複数社によるオンラインコラボレーションイベントで、参加各社は会社の枠を越えて活動しています。日常業務もこなしながらイベントのために積極的に参加しているメンバーの熱意によって駆動されているプロジェクトですが、その想いをかたちにするためには何かしらの支援を必要とします。

運営面では池上通信機の今成歩さんと私IIJの山本文治が事務局的な役割を担っていますが、ここではプロジェクトの活動を支えているツールについて紹介してみます。

コロナ禍によってオンラインコラボレーションツールの重要性と有用性は一般にもかなり共有されることになりました。これまでは一部の人しか使っていなかったチャットツールやオンラインビデオ会議ツールが社会一般に広まったことは周知の事実かと思います。

しかしそこは「IP化」を看板とする我々。当然、コミュニケーションはすべて「over IP」でおこなわれます。ここではVidMeet Onlineで用いている各種のツールをご紹介します。

まずこれがないと始まらないのはオンラインチャットツールの「Slack」です。元々VidMeet Onlineのアイディアが浮かんだのも、2019年Inter BEEでの有志のプロジェクトが使っていたSlackのチャンネルからでした。現在はVidMeet Online用に「運営チャンネル」「技術チャンネル」「ウェビナー連絡チャンネル」を作成。後述するGROWIとの通知連携も含めて、非常に活発な議論がおこなわれています。

Slackについては、その有用性だけではなく「よりよい使い方」についても議論が交わされました。チャットツールは非常に便利に使える反面、発言の敷居の低さによって重要な情報が流されてしまいがちです。いわば「情報S/N比の悪化」に対しての対策が必要ではないだろうかという問題意識があります。このあたりは、今後Slack社や他社類似ツールにおける開発の方向性を見極めつつ、「議論をいかに盛り上げるか」「運用ツールとしてどのように使いこなせるか」が重要になるのではないでしょうか。

そしてSlackの濃い議論をさらに支えるのは「Zoom」。もはや説明の必要がないくらいに普及したツールです。今回我々はZoomを「全体ミーティング」「部門別ミーティング」そして「ウェビナー」の三パターンで用いています。ミーティングは20名弱、ウェビナーは100名を超える参加者を集めることがあり、各社様の商用ライセンスをご好意により使わせていただいています。この場を借りて、感謝の念をお伝えいたします。ありがとうございます。

Zoomはあくまでカジュアルに使っているという感じですね。マイクや映像入力に拘る方もおられると思いますが、VidMeet Onlineではさらっと使いこなす方が多い印象です。ただ職業柄か、ノイズやハウリングには厳しいかもしれません(笑)。

一昔前、二昔前だとこれに必ず「携帯電話」が加わったかと思いますが、今回はほとんど聞かないですね。事務局の二人は在宅勤務も多いため、何か込み入った相談があるとSlackで「今からZoomいい?」と発火する感じです。

次に紹介するのはWikiツールの「GROWI」です。連絡そのものはSlackでするにせよ、何かまとめた資料なりメモを作りたい、あるいはZoomミーティングのアジェンダを作成したい・議事録を作りたいとなると、Webベースのツールがどうしても必要になります。GROWIはWESEEK社が開発しオープンソースで提供されているWikiツールです。編集中のマークダウン文書のリアルタイムプレビューが可能という特色を持っています。筆者が探してきたツールなのですが「なんかカッコいいな」と思って使い始めてみました。この「カッコよさ」も、プロジェクトメンバーに使ってもらおうとした時の重要なファクターだと思ったからです。マークダウンの書式も難しくなく、とっつきやすい印象です。

何か考えをまとめ共有するときに、ついPowerPointで文書を作ってしまうという方も多いのではないでしょうか。しかしその考えをファイルにしてしまうと、今度は「情報共有の広がり」を持たせにくくなります。皆が共有できるWebページを改版していく方が、この手のプロジェクトでは特に重要なファクターになります。

GROWIではダイアグラムをWebブラウザ上で描画できるdraw.ioとの連携機能も付いています。最初はこれもカッコいいなと思っていたのですが、実は筆者はお絵かきするのが非常に苦手。ある方がネットワーク図を送る際に「紙に手書きした絵を写真に撮ってGROWIに添付」するという手法を取ってこられて、これだ!と閃きました(笑)。この方がはるかに速いし、意思疎通には十分だったりしますよね。もちろんデジタルデータのわりには再利用できない(JPEGファイルやPNGファイルの写真ですから)という弱点があるのは分かっているのですが、この辺りは痛し痒しですね。

draw.ioで描いた図。カッコいい。が、一回しか使わなかった。
まー、これでいんじゃね?の図。色々なものを諦めた後の清々しさがある。

商用ツールのBoxではオンラインで複数人が同じファイルに対してリアルタイムテキスト編集を共有できる機能がついていたりしますが、これが一般的になるといいなと思っています。議事録の出席者を書くのが圧倒的に楽になりますし(チェックインがわりに記名してもらえば良い)アジェンダ出しもよりやりやすくなります。この辺りは、チャットツールとWikiツールの中間に開発の可能性があるんじゃないかなと思っていたりします。

そして、Webサイト vidmeet.tv に用いているのが「Wordpress」。これも説明の必要がないでしょうが「ブログから高機能なサイトまで作ることができるオープンソースのソフトウェア」です。(ja.wordpress.orgによる)実は私、今回はじめてWordpressに触れました。VidMeet Onlineの活動を計画している中で、どうしてもWebサイトの必要性があると感じたのですが、筆者は「HTML 2.0世代」の人間です。どう逆立ちしてもイマっぽいWebページを書くなんてことはできません。ただこの世の中では、ある程度それっぽいWebページでないと、見る人が寄らなくなることもわかっています。正直言えば、仕方なく手を出した…というところでしょうか。

いまvidmeet.tvへアクセスして「見にくいなぁ」とお感じのあなた。私も同感です(苦笑)。あまり見栄えにこだわる時間がなくて申し訳ないと思っています。次こういう機会がもしもあったとしたら…なにか別のツールを探すかもしれません(おっと、PHPの悪口はそこまでだ)。

ちょっと長くなりました。時間があれば、次はネットワークツールについて書いてみたいと思います。

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タイミングは全てなのか?

池上通信機 事業プロモーション室 (放送担当) 今成 歩

「アメリカの大統領にとって最も重要な事は『アジェンダ・セッティング(課題の設定)』だ」と、とある有識者が先だってのアメリカ大統領候補TV討論会に際してコメントしたのだが「確かにね~…」と思ってしまった。

11月3日は4年に一度のアメリカ大統領選挙の日だが、12年前の大統領選挙の当日、私はシカゴのオバマ大統領勝利宣言の会場で、衛星生中継の技術班で仕事をしていた。その時のアジェンダはかの有名な「CHANGE」であり、「YES WE CAN」は日本でも大流行したと聞いた。

それから遡ること更に8年程、21世紀を向かえようとする頃、「ドットコム・バブル」と空前の好景気に沸くニューヨークに出たばかりの私は、「Timing is everything (タイミングが全て)」という言葉に何度も出くわす事になった。就職活動、企画のコンペ、果ては企業の経営判断まで、猛烈な勢いで「イケイケ状態」が続いていたニューヨークでは、「とにかく波に乗り遅れないように」と深い考察や冷静な評価無しに世の中がどんどん動いていった気がする。それから2年も立たない2001年9月11日に、そのニューヨークは同時多発テロという未曽有の危機を経験し、2008年9月にはリーマンショックの震源地となり、世界金融危機の元凶となった。

余談だが、リーマンブラザーズ本社前のスタバでよく内職していた私としては、1987年10月のブラックマンデーとか、アメリカの金融経済界は今までも結構「ヤラカシテいる」と声を大にして言いたい。

さて、前置きばかりが長くなってしまったが、今日、話題にしたいのはPTP、Precision Time Protocol への導入で、何故ならそれは、長くIP/IT化が進まなかった放送業界で核となる要素技術が「同期結合」、それを可能にする「タイミング管理」だからだ。

放送業界、分けても日本における「タイミング管理」の厳格さは、あの伝説の生放送番組、「8時だョ!全員集合」の頃から本質的に変わっていないのだが、インターネットが発達し、世の中でIT化、デジタル化、などと喧伝されて久しい2020年現在も、B.B.に代表される連続的なアナログ同期信号は放送設備の心臓部だ。

皮肉にも、アナログビデオ信号がデジタル信号になり、更にHD (ハイビジョン)になり、更に4K、8Kと超高解像度、超高精細を訴求していくなかで、超高周波における厳格なタイミング管理の技術は、安定したテレビ放送の実現のみならず、日本の放送技術が「世界品質」と呼ばれてきたコア技術であると私は信じている。

PTPは、世界的にも類を見ない厳格なタイミング管理を「文化」としてきた日本の放送業界が、ついにIP/ITの世界へと扉を開く、そんな大きな可能性を秘めた技術である。そう敢えて書いたのは、PTPについて我々の知見はまだまだ充分とは言えないからだ。

VidMeet Onlineでは、「日本のグランドマスター」の異名を取るテレストリーム(旧テクトロニクス)社の加藤 芳明さんによる魅惑のウェビナーを企画し、11月からいよいよ本格化するデータセンターとVPNを駆使した20社合同(10/24現在)の大規模デモでも最大のテーマのひとつとしている。是非、奮ってご参加頂き、共に放送業界の未来を考える事が出来れば、これに優る喜びは無い。

最後に、誤解無きように、私は今でもニューヨークが大好きだ。実はコロナが大流行する直前の2月に、7年ぶりに当地に出張したのだが、ニューヨークは変わらずチャーミングな街だった。願わくば次にニューヨークで仕事出来る時には、「これこそ日本のオリジナリティ」と胸を張って、手強いアメリカ人達と渡り合いたいと思っている。

勿論、新たな一歩には希望と共にリスクが立ちはだかる。コロナ禍で足元の経営戦略にもリスク回避が顕著なのは我々だけではない訳だが、「Timing is everything」とか「YES WE CAN」とか、日本語でも新たな一歩を後押ししてくれる、そんなスローガンは無いものか?色々探してみたけれど、やっぱりあれか?それこそ「タイミングを逸している」との誹りを免れないかも知れないが、発言主にも大いなる敬意を持って、敢えて言おう。

「いつやるか?今でしょ?」(了)

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スティーブ・マックイーンとデータセンター

池上通信機 事業プロモーション室 (放送担当) 今成 歩

私は自他共に認める平和主義者なのだが、「カーキ色」が大好きだ。「カーキ色」は定義の微妙な色で、「アーミーグリーン」「セージグリーン」「オリーブドラブ」など、実は多種多様な色目であるものの、総じて「漢気(おとこぎ)の緑色」を想像して頂きたい。

そう、ベストヒットUSAで育ち、バブルの時代に「アメカジ」の洗礼を浴びた我々の世代は、MA-1と呼ばれる米軍のフライトジャケットにきっと一度は袖を通したであろうし、長じて往年の名画「大脱走」のスティーブ・マックイーンに「なりたい」と一度は夢見た「男のロマン」世代なのだ。(余談だが、「半沢直樹」の世代は少し上になる)

そんなカーキ色大好きの私も、4月からのテレワークで自慢のカーキグッズで現場を颯爽と歩く機会も無く、悶々としていたところに、ついに来た千載一遇のチャンス、それが昨日の「データセンター機器実装」だったのだ。

止せばいいのについつい買ってしまった新調の「HBT (ヘリンボーン・ツイル)」カーキ色、ミリタリー風パンツを身に付け、久しぶりに電車に乗って件のデータセンターに向かう途中、車窓に映った自分の姿を見て「流石にちょっとコスプレ入ってないか…?」と少し不安になって、iPadで一生懸命勉強している風だった女子高生の視線を意識したりしながら「現場」に向かったのである。

生まれて初めて足を踏み入れたデータセンターは、「現場」と言えば、ケーブル作製時の被覆の山にまみれる工場や、焼きそばパンをかじりながら一心不乱に電子台本の追い込みをする報道フロアとは全く別次元の、正に「機能そのもの」という風情で「無機質」とすら感じさせる、ある種の威圧感を持って私を迎え入れたものだ。

しかしながら、実際の作業は、4人の男達で寄ってたかって「棚板」をラックにネジ止めしたり、空調の爆音の中、ケーブルを通線穴から二人で手繰り寄せたり、あの「漢気(おとこぎ)の空気感」にあふれ、帰宅して眠る頃には筋肉痛になっていた。

「放送IP化はクラウドを目指す」この分野に携わっていれば誰もが感じる命題だが、実際のデータセンターでも、クラウドの機能を提供する為に「オンプレミスのベタな作業」は不可欠な訳で、その「オンプレミスのベタな作業」は、私自身にとても親近感のある「怒涛の漢気(おとこぎ)作業」でもあったのだ。

これまでなかなかIP化の進まなかった放送業界も、いよいよその荒波を真正面から受ける、そんな時代に私達は立ち会っているのかも知れないと思う。そんな時代に、「データセンターに居たよ、スティーブ・マックイーン」と、スマート世代の語り草になる、そんなオヤジに私はなりたい。(了)