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SMPTE ST 2110 Virtual Courseと私

株式会社インターネットイニシアティブ 山本 文治

そうそう、SMPTEがロゴを変更しましたよね。自分は1980年代チックでナウでヤングな印象を受けました。

歴史のある学会だけにロゴの変更には内部で議論もあったでしょう。私がすぐ思い出したのがNASAのロゴの変更でした。

NASA insignia, 1975–1992
NASA insignia, 1959–1975, 1992–present

1975年に登場したこのロゴはデザイン的には高い評価を受けつつも職員の間では色々な議論があり、1992年には以前のロゴ−実に1959年に制定されたもの−へ戻されるに至ります。大組織でいかに個々人の意識改革が難しいのかを物語っている…のでしょうか。

1996年に初めて渡米したとき「自分はいまアメリカ合衆国に来たのだ!」と感じた瞬間をはっきり覚えています。それはSFOからSan Joseに向かう101の途上で見えてきたこのNASAのロゴそして「NASA Ames Research Center」の看板を見たときでした。映画”The Right Stuff”の世界を想起させ、かつまたその頃主要な位置を占めていたIXがNASA Amesにあったこともあり、科学技術の大国に来たのだと肌で感じた一瞬でした。(今も看板あるのかなあと思ってGoogle Streetviewで探してみたら見つけられませんでした。もしかして擬似記憶?)

さて今回はそのSMPTEの2110 Virtual Courseについて紹介させてください。SMPTEの今の推し技術のひとつがST 2110であることはWebサイトをちょっと見ただけでもわかりますが、その中でご紹介したいのが”Understanding SMPTE ST 2110″というVirtual Courseです。これはいわゆるオンライン学習コースで、2017年に開講されて以来繰り返し開催されています。

コロナ禍の際に半額キャンペーンをやっていたので受講しましたが、これがなかなか勉強になる内容でした。コースは全部で6コマあり、受講時間以外に4-6時間/週程度の自習時間を想定。卒業試験込みで8週間の期間を想定。授業はオンデマンドムービーと資料でいつでも受けられて、週一のライブレクチャーセッションあり(日本からだとあまりにも深夜なので、私は参加しませんでした。質問はBBSでもできます)。講師はLearnIPVideo.com主宰者のWes Simpsonと、なかなか骨太な概要です。

  • Module 1 – Background and System Overview
  • Module 2 – Video Encapsulation
  • Module 3 – Audio Encapsulation
  • Module 4 – Data Encapsulation
  • Module 5 – Synchronization and Identification
  • Module 6 – Traffic Shaping and Delivery Timing

各コマの内容は以上のようになっており、ST 2110技術の俯瞰ができるようになっています。今だとNMOSの話がないと満足できないかもしれませんが、そこは仕方がないところでしょうか。

毎コマ毎に時間制限付きの選択式小テストがあり、きちんと回答するには予め規格書を読んでおくことが好ましいと思われます。ST 2110の各ドキュメントは受講者に無料で配布されますが、しっかり理解しようとすると関連RFCやAES67, ST 2059も押さえておく必要があり、ここが非常に勉強になると感じたところです。

脱線するとST 2110-30やAES67からreferされているRFC 3190 “RTP Payload Format for 12-bit DAT Audio and 20- and 24-bit Linear Sampled Audio”は当時CRLの小林克志氏(現・東京大学)と慶應SFCの小川晃通氏(現・「Geekなページ」ブロガー)他2名に依るものです。当時WIDE Projectが推進していたDVTS (Digital Video over IP)を標準化するためRFC3189 “RTP Payload Format for DV (IEC 61834) Video”とセットで発刊されたもので、これは実に2002年のことです。

このRFCがAudio over IPの時代になって再び注目されreferされているのを見て、標準化作業の重要性を感じたものです。そういえば発刊されたとき勉強会をしてたよな…と思い出しまして、その時のログをarchive.orgからご案内しておきます。https://web.archive.org/web/20080214164254/http://streams.jp/BOF/DV/log.txt

閑話休題。このVirtual Courseで学ぶことができる内容は、ベンダーの開発者やエンジニアならもはや頭のなかに入っていることばかりでしょうが、特に私のような放送技術の門外漢にとっては効果が最大化できるように思います。同時に受講した同僚も勉強になったと言っておりましたので、きっとそうなんだろうと思います。

春先の段階ではSMPTE会員のみが登録可能となっており、そこはもったいないところでしたが、今は非会員でも受講できるようです。また半額キャンペーンも続いています。特にSMPTE会員企業ならば非常にお得なコースではないでしょうか。あるいはこれを機会にSMPTEへの入会を考えても良いでしょう。

小テストと卒業試験をクリアすると次のようなcertificationがもらえます。自己満足、もとい自己研鑽のためにいかがでしょうか。